どれくらいの間走り続けたのだろうか。チドリは森の中に小さな川が流れていることに気がついた。チドリは肩で息をしながら立ち止まり、後ろを気にしながら少し考えた。走っている間は考えないようにしていたが、幾度となく転んだせいで体中は傷だらけ。体中の水分が涙と汗で流れでて、喉は干からびてヒリヒリと痛む。

周りを見渡し、人の気配が無いことを念入りに確認してから、チドリは川に足を踏み入れた。水は予想以上に冷たく、傷口に染みて痛かったが、そんなことはすぐにどうでも良くなるほど爽快だった。川の底は思っていたより深く、太ももの辺りまで浸かることが出来た。チドリは傷口に入り込んだ泥を洗い流し、転んでついた顔の泥をすすぎ、水をすくって喉を潤し一息つく。辺りは川の流れる音しか聞こえないくらい静かで、頭上では届かない陽の光が木々の隙間で揺らめいていた。

 今まで走ることに必死で気が付かなかったけれど、なんて心やすらぐ場所なのだろう。彼女が腰掛けている川の縁にはきめ細やかなコケが生えていて、その手触りはまるで絹のよう。木々を縫って吹く風も、あたかも上質な香木のように芳しい。

もう少しだけ休んでいこう。そう思ってしまったのがいけなかった。