追っ手の姿はとうに見えなくなっていた。しかし、油断なんて出来るわけない。

 誘拐犯という人種は大抵切羽詰まっていて、失うものなど何もない程堕ちている。人質との口約束の1つや2つ、裏切るためにするものだ。まして利用価値のなくなった人質など、彼らがまともに扱う理由なんて無い。良くて殺されるだろう。悪くて殺されたいと願う程の事をされるだろう。結局どちらも地獄なら、死ぬ思いをしてでも逃げた方がいい。だから彼女は今こうして走っている。


 走る足を止めずに、チドリはちらりと背後に振り向き目を凝らす。光が差さない森の中は、追っ手の目を眩ませるのに適している。けれどもそれは自分も同様だ。自分は本当にあいつらを撒けたのだろうか。どこかで待ち伏せされてはいないか。形のない不安が胸の中で重なり積り、チドリは唇の端を強く噛む。

 自分は強くならねば。今この瞬間、自分を守れるのは自分しかいないのだから。彼女は意識を足に向け、自分は足だけの生き物なのだと言い聞かせながら走った。今まで誘拐された時は、いつもそうしてきた。