薄暗い森の中、一人の少女が一人歯を食いしばって走っていた。

綺麗に結ばれていた少女の髪の毛は見る影もなくバサついていて、お気に入りだった紅色の袴は、先程木の根に足を捕られたせいで泥に塗れ、所々が破けている。手足は擦り傷だらけで、傷口は血と泥が混じって赤黒くなっていた。

痛くて惨めで腹が立って、今にも泣き出したくなるのを堪えながら、少女はただ、ひたすらに走り続ける。走り続けなければいけない。

少女の名前はチドリという。なぜ彼女は走るのか。それはチドリが先程まで誘拐されていたからであり、そして正に今、逃げ出している真っ最中だからである。